正統派FET−DC−AB級15Wアンプの製作(まひつる24原稿) 
 
町田秀和@電子制御工学科
正統派FET−DC−AB級15Wアンプの製作
 

                   1.はじめに
 映画ジュラシックパークは見ましたか。よかったですねえ、最後のヴェラキラプトル とティラノサウルスの格闘は素晴らしかった。とにかく、コンピュータグラフィックス (CG)による動画の魅力にあふれてているが、かといってCGを意識する事無くこと なく画面に引きつけられた。ティラノサウルスの雄たけびもシンセサイズ音だろう が、この音の迫力を再生するアンプを製作することも楽しみだ。
 また舞鶴高専のプロコン作品は93年度も非常に高レベルであった。プログラマーズ コミュニティーのメンバーの実力はたいしたものだ。ロボコンは残念だったが、全国 大会のレベルは少しづつ上がっているようだ。
 と、かように、地球全体が不景気だといっても、ハイテクは減退するのではなく、 むしろ必須になってきている。
 前置きが長くなったが、今回はDCモータの制御にも最適なFETによるDC アンプの製作を紹介する。特徴としては、出力FETに安価なスイッチング用を 採用し、初段にはOPアンプを使って、簡単で高性能なことを目指している。予算は、 8千円くらいだ。
 とにかく、簡単、高性能で、音質は最高。また、DCモータに対しても、リニア アンプとしてもあるいはPWMドライバを外付けても高性能なアンプとして、十分 実用になる。

2.DCアンプについて
 DCアンプとは直流まで増幅できるアンプである。そうでないと、DCモータを 駆動できないのはあたりまえである。ここでいう、直流(DC)信号というのは周波数 が0の信号である。もちろん本DCアンプは十分高い周波数まで増幅でき、音楽の 再生ももちろんできる。超低音まで増幅できるので、たいへん迫力のある再生音が 期待できる。
 さて、そのためには入力から出力の経路にコンデンサが入ってはならない。 なぜなら、コンデンサは直流を阻止する素子だからである。 コンデンサを追放する ためには、入力に差動増幅回路を採用する必要がある。これをトランジスタで組むの は少々難しい(複雑になる)。そこで、本アンプではOPアンプ(オペアンプ: 演算増幅回路)ICを採用して、簡単化している。現在のOPアンプは大変高性能、 低雑音である。ただし、キーポイントは出力電流をあまり多く取り出すと性能が 劣化するという事である。したがって、OPアンプの後にトランジスタで電流増幅 してやることが必要となる。
 本アンプでは出力素子にMOS-FET(電界効果トランジスタ)採用している。 FETは入力電圧で出力電流を増幅する素子で、普通のトランジスタに比べて、 熱安定度が高く、発振しにくく、たいへん製作し易い、ただし少し特性のバラツキ が多いと言われている。しかし出力段では多少のバラツキは問題にはならない、 初段にはOPアンプ内に特性のそろったFETが組み込まれているから大丈夫 なのである。
 出力FETを駆動するためには、バイアス電圧の設定が必要である。これは、 普通のトランジスタで簡単に設計できる。電流を多く流す必要がないので十分高性能、 低雑音にできる。

3.設計(図1の回路図参照)
 まず、電源であるが、OPアンプを採用することから、±15Vとする。 OPアンプには簡単に三端子レギュレータICで安定化した電源を供給する。
 出力はAB級でP=15Wを目標とすると、簡単に7.5WまでA級増幅すると考えて、 負荷がR=8Ωのスピーカとすると、P=I2Rから最大電流Imax=1.369Aである。ゆえに アイドリング電流はID=1.369/2=0.484Aである。さて、出力素子はスイッチング用 FETである2SK428/2SJ122である。これは、電源ユニットにたくさん用いられて おり、日本橋のジャンク屋では、放熱板つきで1個百円であった。2SK428の スペックは最大ドレイン電流IDmax=10A、ドレイン損失PDmax=50W(Tc=25℃)、 許容電圧 VDSS=60Vである。さて、図2の実験回路から、アイドリング電流ID を0.484A流すためには、入力電圧はVG=4.8Vでよいことが確認できた。また、 ドレイン損失PDを確認すると、電源電圧を整流直後のVDD=21Vとすると、 PD=VDDID=21・0.484=10.164Wであり、余裕でPDmaxを下回っている。  半導体アンプでは重要である熱計算であるが、許容接合部温度Tjmax=150℃、 周囲温度を60℃とすると、全熱抵抗はθja=(Tjmax-60)/PD=8.85℃/W、 内部熱抵抗θi=(Tjmax-Tc)/PDmax=2.5℃/W、ゆえに必要な放熱器は θf=θja-(θi+取り付け用マイカ抵抗)=5.85℃/Wである。この数値は体積が 70000mm3すなわち70ccの放熱器(かなり小さい)が必要なことを意味している (文献2,p.141)。
 ドライバ段は2SC1815GR/2SA1015GRを用いる。FETの入力電圧すなわち エミッタ電圧VE=4.8V、エミッタ電流は図2と同じIE=4.4mA以上とすると、 エミッタ抵抗はRE=R7=VE/IE=0.48kΩ、したがって市販品のある値からR7=510Ω とする。2SC1815のコレクタ損失はPCmax=400mW、最大コレクタ電流ICC=10mA であるが、設計コレクタ損失をPC=100mWとするとコレクタエミッタ電圧は VCE=PC/ICC=10V以下でなければならない。したがって、 コレクタ抵抗 RC=VRT2に食わせる電圧はVL=VCC-VCE-VE=6.2Vである。したがって RC=VL/ICC=0.62kΩからRC=VRT2=510Ωとする。エミッタ電流IEは再計算すると IE=VE/RE=9.6mAである。
次にバイアス回路であるが、トランジスタ2SC1815を用いる。ドライバ段の 2SC1815GRの電流増幅率hfe=200であるので、そのベース電流はIB=IE/hfe=0.047mA である。そこでバイアス段の2SC1815のコレクタ電流はIC=1mAも流したら十分 だろう、したがってVRT1とR4に流すバイアス電流はその1/10のIbias=0.1mA程度 とする。さてバイアス段の目的はコレクタ−エミッタ間にVCE=10.8V=2*(4.8V-0.6V) を設定することである。なぜならトランジスタのベース−エミッタ間電圧は0.6Vで 一定だからである。したがって、R3=0.6V/Ibias=600ΩからR3=5.1kΩとすると、 VRT1+R4は(VCE-0.6V)/Ibias=80kΩ程度である。R5とR6がなぜ12kΩなのかは宿題に して置こう。
 初段のOPアンプは必要な出力電圧は0.047mA=47μAであるので、 十分に高性能が期待できる。現在は優れたOPアンプがたくさんあるが、 米テキサスインスツルメントの低雑音FET入力OPアンプTL072を採用する。 他にレイセオンの4558でも良い。おすすめは、三菱電機のM5218である。 トラ技で絶賛された逸品で私も愛用している。さて、CDの出力電圧は最大2Vだから、 アンプの電圧増幅度はAv=10あれば十分だろうしたがって、Av=(R1+R2)/R1から R1=1kΩ,R2=9.1kΩとする。また高域のカットオフ周波数をfc=200kHzとすると C1=1/(2πR2fc)からC1=120pFとする。
 えっと、後は出力端子のR14とC2はスピーカを繋ぐときの補償用である。 それから、電源トランスは0.484*2=0.96Aから1Aの容量があれば十分である。

4.製作
 部品は表1のとうりである。特殊な部品はなく、 全て汎用の安い部品ばかり である。FETは最大ドレイン電流IDmax=5A以上、ドレイン損失PDmax=20W以上、 許容電圧VDSS=30V以上なら2SK428/2SJ122でなくてもどんなものでもよい。 OPアンプもTL062,TL072,TL082,4558,M5218など選ぶのに困るくらいだ。 放熱器、電源トランスはパーツ屋のオジサンに相談して選ぼう。
 製作は、ユニバーサル基板で行う。配線もとくに難しいところはないだろう。 問題は放熱板のとりつけである。シリコングリスを塗りたくり、マイカ板で絶縁を キチンと行わないと後でトラブルの種になる。ケースは今回は大野電子で3000円で 買った計測器用を用いたが、アルミのオベントシャーシでカラースプレーで好きな 色に塗装するのが個性的で格好いいだろう。

表1 部品表

種類 単価(およそ)
IC TL072 1 \150
7815 1 \150
7915 1 \150
FET 2SK428 2 \100(新品だと\700)
2SJ122 2 \100(新品だと\700)
Tr 2SC1815(GR) 4 \50
2SA1015(GR) 2 \50
Di ブリッジ100V5A 1 \200
トランス 0-15-30V1A 1 \1500
R(1/4W) 510 6 \10
1k 6 \10
5.1k 2 \10
9.1k 2 \10
39k 2 \10
12k 4 \10
0.22(1W) 4 \30
30(3W) 1 \50
C(電解) 22000μF/35V 2 \800
100μF/25V 2 \100
C(マイラ) 0.1μF/50V 4 \50
0.047μF/50V 1 \50
C(セラミック) 0.1μF/25V 1 \30
VR 50k(A) 2 \100
VR(半固定) 100k(B) 2 \100
1k(B) 2 \100
その他、プリント基板、シャーシ、放熱器、電源スイッチ、ヒューズ、ヒューズボックス、つまみ、入力ピン端子、スピーカ端子などなど、 総計 \8,000 でおつりがくるくらい。

5.調整
 組立が完成すれば、落ちついてまずコーヒーでも用意しよう。そして、出力に ダミーロード(8Ω20Wの抵抗)をつけ(配線に自信があればスピーカでもOK)、 入力ボリウムを絞る。そしていよいよ電源スイッチON!(これを火を入れるという)。
 だいじょうぶ?火を吹いたり煙が出なかったらまず大丈夫だ。落ちついて、テスタで 図1の回路にある電圧を計る。そのためには、VRT1でR13の両端電圧を0.11V、VRT2で 出力SP端子とアースの間を0Vにする。電圧がキチンとでてないなら配線ミスよりも 部品のつけまちがいかもしれない。さて、電源を入れたままにしておいてコーヒー でも飲みましょう。うまくいってたらインスタントでもブルマンの味がするでしょ?
 30分位たったらもう一度、電圧を確認して調整する。さらに時間をおいて再調整し、 電圧が落ちついたら完成!ということになる。ここで、オシロスコープと低周波発振器 があれば、出力と入力に繋ぎ、入出力波系を確認する。低周波から高周波まで、 実にキレイに増幅していることがわかる。出力も余裕で予定の15W以上が得られている。

6.試聴
 入力にCDプレーヤ、出力にスピーカを繋いで試聴してみた。まず、電源ノイズ は全く聞こえない、CDプレーヤの残留雑音だけが耳につく。CDをPLAYにする。 うーんいい音だ。DCアンプらしく超低音から高音まで実にフラットである。 無色透明で面白みに欠けるくらいだ。パワーは十分すぎる位出ている。 これくらい出ていると、2あるいは3スピーカ式の立派なスピーカボックスが 欲しくなってくる。BOSEなどの大出力が必要な小型モニタスピーカにもお似合いである。
 次に、入力に1.5Vの乾電池を、出力にラジコン用の12Vモータをつなぐ、 モータに直列に数Aのヒューズを入れた方が安全だろう。ボリウムを回すと、 モータの回転速度が可変できる。ボリウムを全開にするとモータはギュンギュンと回る。 ただし、保護回路は入っていないので、ヒューズだけがたよりである。 でもモータ軸を指で止めてみたが、ヒューズより先に指の方がもたなかった。

7.さいごに
 今回のアンプは制御用にも使える正統派アンプだった。でも以前に紹介した 真空管アンプにもICアンプにもそれなりの味わいがある。ここらへんが、 人間らしさというか趣味の入り込むゆえんであろう。 さて、ジャンク屋で 買った2SK428/2SJ122を舞鶴高専のネットワークニュースの売りますコーナー (mct.forsale)にそのうち出すつもりなので、興味のある方はネットワークニュース も見て下さいね。(私はニュースマスタなのだ:-))
 次に機会があれば、アンプは卒業して、高周波回路を紹介したい。 みなさん鶴友寮でオンエアされているFM782ってご存知ですか。 トランジスタ2石のFMワイヤレスマイクでも電波が飛べばすごく感激しますからね。

参考文献

  1. 窪田登司、やさしく作れるスーパーアンプFETアンプ製作集、 誠文堂新光社、\1750
  2. 鈴木、実験研究トランジスタ回路中級入門、トラ技オリジナル、 1990,冬号,No.5,\980
  3. CQ出版社、FET、トランジスタ、モノリシックOPアンプ  規格表